蹴りたい背中

2004年9月27日 読書
今日はそこまで綴りたい事がないので、一つ感想文を。
というわけで今更感もありつつ蹴りたい背中。
インストールより数倍面白かった。(ていうかインストール、イマイチでした)

にな川(蜷川)とハツ(初実)。正真正銘アイドル追っかけ少年と斜に構えた一匹狼もどき少女。
孤立してても孤独を感じる事のない少年と孤独を感じても孤立に意味を見出そうとする少女。
そしてちょっと精神的マゾな少年とちょっと肉体的サドな少女。
二人の生きてるゾーンに漂う空気は全く違うもの。何しろ孤独の種類が違う。
でも、孤独という名の、何とも言えない気だるさが魅惑的な共通項に見事に魅せられちゃったハツは、そこに矛盾がある事、そこに自分の本当の気持ち(自分と同じ様な考えの仲間が欲しい!)がある事に気づかないまま、ずるずるとにな川とこっそりつるみたいと思う様になる。

ハツがにな川を蹴りたくなる時はこの本の中で二度あるけれど、その衝動に駆り立てる感情の種類は同じものじゃない。
一度目は二つの嫉妬と一つの怒り。
自分っていう生身の女の子が狭苦しい部屋の中すぐ後ろに座ってるっていうのに、アイドル(オリチャン)の発する不特定多数に対する電波のほうが大事だって言うのかよ!むかつく!っていう、アイドルへの嫉妬。
自分がなかなか持てない自分専用の世界、周りを気にする事、孤独を孤独と思う事から全く解き放たれて生きている、そんなにな川への嫉妬。
そして偶像崇拝に精を出すにな川に、
シビアな現実の世界を見ろ!生きている世界を見ろ!私の吸ってる空気と同じものを吸ってよ!
という、最後は懇願にも似た怒り。
一度目は、これらが絡み合って蹴りたくなった。これはまだサドじゃない。
しかし二度目。これがサド。
にな川の偶像崇拝時代にゆっくりと幕が下がっていくのを見て、
ハツの心の中に一度目の時にあったアイドルへの嫉妬、にな川への嫉妬、怒りは殆ど消え去った。
そして代わりに現れた、いや隠れてた欲望として浮き上がってきたのは、「愛情よりももっと強い気持ち」
この情けない男をそっと見守るように愛でるのではなくてダイレクトに小突いてやりたいという純粋な愛着の念だったのだ。

読んでる途中、リアリティー出すの上手いなーと私的に注目した箇所は、この二度の蹴りはどちらもにな川の部屋で起きている所。これはハツの部屋であってもいけないし、ましてや学校、無印のカフェであってもいけない。
ロケーションが変な上に狭苦しいにな川の部屋。現実から切り離された小さな世界。
周りの全てからハツを解き放とうとする雰囲気に飲まれ、ハツの気持ちも解き放たれてしまう、という状態がどうしようもなく胸にぞわりと押し寄せる。
二度目がベランダで起きたのも何となく象徴的。
ベランダは非現実(にな川の部屋)と現実(外の世界)が交じり合う場所。
にな川が自分の世界の殻を世界の中心に君臨していた女神自らに破られて、現実の世界に顔を出す。ようやくハツと同じ空気を吸い始めた彼をハツは、自分自身いまだよく理解できていないにな川への執着心(=斜に構えた愛着?)を胸に迸らせながら、親指を強く押し付けて迎え入れたっていう事なんだろう。

うーん、この作品って結局私のツボをうまく突いてくれたんだな。中高時代、女子校ゆえクラスメートではなかったものの、ある知り合いに同じ様な感情を持った事があったからかもしれないけどねえ。
久々にじわっと瑞々しい気持ちに浸らせてもらった作品だったよ。

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